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水戸地方裁判所 昭和51年(わ)17号 判決

裁判所書記官

大野重君

本店所在地

茨城県東茨城郡茨城町大字長岡三、四七五番地

株式会社大昭商事

右代表者代表取締役

木村和代

本籍並びに住居

茨城県東茨城郡茨城町大字長岡三七〇番地

会社社長

木村一男

昭和七年六月一〇日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官安達敏男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人木村一男を懲役八月に、被告会社を罰金八〇〇万円に各処する。

ただし、被告人木村一男に対しこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は茨城県東茨城郡茨城町大字長岡三、四七五番地に本店を設け、不動産の売買等を営業目的として、昭和四七年一〇月一二日に設立された資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人木村一男は右会社の代表取締役木村和代の夫で、実質上の経営者としてその業務全般を掌理するものであるが、被告人木村一男は被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、支払手数料、造成費を架空に計上することにより簿外預金を設定する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和四七年一〇月一二日から昭和四八年七月三一日までの第一期事業年度において、被告会社の実際所得金額が一億三三七三万六六〇九円あったのにかかわらず、昭和四八年九月二八日水戸市北見町一丁目一七番地所在の所轄水戸税務署において、同税務署長に対し、所得金額四二六二万六九〇九円、申告税額一四一七万九二〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって被告会社の右事業年度の正規の法人税額四七六三万九四〇〇円と右申告税額との差額三三四六万〇二〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一、被告人木村一男の検察官に対する各供述調書

一、被告人木村一男の大蔵事務官に対する各質問てん末書(八通)及び答申書(五通)

一、木村和代、木村二三男、海老沢八十男、根矢もん、吉田和夫の検察官に対する各供述調書

一、第三、四回公判調書中の証人小川享、第四回公判調書中の証人丸田昭、第五回公判調書中の証人中村邦男、第六回公判調書中の証人樫村重友の各供述記載部分

一、黒田勇、黒田博、前島みさを、根矢保、山崎文一、船見儀介、大野長幹、長島義男の大蔵事務官に対する各答申書

一、飯田耕、石塚資農夫、武田明、小貫丈夫、根矢孝達、小貫茂、小川卯吉、富田勇一、村田昇、西野義和、丸田昭の大蔵事務官に対する各答申書(ただし飯田耕の分は質問てん末書)

一、蔀喜久男作成の証明書

一、矢口淳、安見達也、友水孝雄の大蔵事務官に対する各供述調書(ただし矢口淳の分は答申書)

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書

一、大蔵事務官の仕入額、未払金、租税公課、木村一男貸借関係、借入金各調査書

一、水戸税務署長藤咲卓三作成の昭和四九年一一月二〇日付証明書

一、被告会社の商事登記簿謄本及び定款

一、押収してある総勘定元帳三冊(昭和五一年押第四四号の一、同号の一八、同号の一九)、現金出納帳一綴(同号の二)、伝票綴一綴(同号の三)、振替伝票綴一綴(同号の四)、土地代領収綴一綴(同号の七)、買入土地契約書綴一綴(同号の八)、土地売買契約書綴一綴(同号の九)及び土地売買契約書一通(同号の二三)

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、被告会社と昭和不動産株式会社(以下昭和不動産という。)との本件大戸の土地売買取引は、昭和四八年七月二〇日付契約と同年八月一〇日付契約の二個の契約によってなされたものであるから、後者の契約による二億円相当分の土地売却による益金は、同年七月三一日で終る第一期事業年度の益金に算入すべきでない。仮りに契約自体は同年七月二〇日付契約一個としても、本件大戸の土地は税法上たな卸資産に該当し、たな卸資産の売却による収益の額は、国税庁の法人税基本通達二-一-一に示すようにその引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであるから、同年八月一〇日付で引渡しのあった二億円相当分の土地販売の益金は翌事業年度に算入すべきである。以上の理由により二億円相当分の土地売却による益金を本件起訴にかかる第一期事業年度から除外して同年度の法人税を算出すれば、別に争点となっている造成費一、一一一万円を経費に計上しなくても、六〇三万〇八〇〇円となり実際申告税額にも達しないから、同税額の算出に当たり不正な行為を講じたとしても、国の租税債権を害することなく、逋脱犯の構成要件に該当しない旨主張する。

よって検討するに、茨城県東茨城郡茨城町大戸字神宮寺三、三〇三番外一二筆の山林(公簿面積四一、五二七平方メートル、実測面積四九、二七二・六三平方メートル、以下本件土地という。)の売買契約書(昭和五一年押第四四号の二三)、本件土地の登記簿謄本一三通、水戸税務署長作成の昭和四九年一一月二〇日付証明書、第三、四回公判調書中の証人小川享、第四回公判調書中の証人丸田昭、第六回公判調書中の証人樫村重友の各供述記載部分を総合すれば、被告人木村一男は本件土地を昭和不動産に売却するに当たり、契約を二つに分けて欲しい旨同会社の担当者に申し入れたが、同会社では開発許可申請上も分けることはできず、分譲地としてのイメージが下り、右土地の造成工事も一括契約で分けることは不可能としてこれを拒否したので、被告会社もこれを了承し、同年七月二〇日本件土地全部を目的とし売買代金三億三、〇〇〇万円と定めて売買契約を締結したものであること、同日代金内金一億三、〇〇〇万円が同年八月一〇日残金二億円が被告会社に支払われているが、右は前記契約でそのように定められていたに過ぎず、同日改めて二億円相当の土地につき売買契約が締結されたものでないこと、被告人木村一男も第一期事業年度の確定申告書の提出に際し、税理士から契約は一個で発生主義により収益を計上すべきであるから同年度の益金に計上すべきであるとの説明を受け、最終的にはこれに納得して同年度の売上に計上して申告していること、昭和五一年七月二〇日の契約時に本件土地全面積の公簿面上約五三・二七パーセントの地積に相当する部分の土地権利証等所有権移転に必要な書類が昭和不動産に交付され、翌日同会社名義に所有権移転登記が完了しており、同日支払われた一億三、〇〇〇万円の代金が全代金に対し占める割合より相当多い土地について所有権移転登記が行なわれていることが認められる。これらの事実にあわせ考えれば、本件土地の売買は同年七月二〇日になされた一個の契約に基づくことは明らかで、本件土地につき同日付売買と同年八月一〇日付売買の二個に区別されて昭和不動産に登記されていることは、前掲登記簿謄本により認められるけれども、それは手続上そのようになされたに過ぎず本件土地の売買契約が二回に分けてなされた証左とはなし難い。

ところで被告会社は不動産の売買を営業目的とするものであるから、本件土地は税法上たな卸資産に該当するところ、前掲証拠によれば本件売買契約書においては、被告会社は契約締結時内金一億三、〇〇〇万円の受領と同時に本件土地を昭和不動産に引渡し、同会社のため所有権移転仮登記をなし、残額受領と同時に所有権移転登記をすることになっていたが、現実には本件土地のうち公簿地積上約五三・二七パーセントの地積に相当する土地についての権利証等登記に必要な書類が契約当日昭和不動産に交付され、同会社に翌日所有権移転登記がなされ、その余の土地については同年八月一〇日の残金二億円の支払時に登記関係書類が交付されたこと、これは右契約当時被告会社は本件土地全部を地主より買受け所有権を取得していたが、一部の土地につき代替地を渡すことになっていたのに、その代替地がまだ確定していなかったため、一部の土地につき代替地をもらうことになっていた地主が権利証等を渡すのを拒んでいたためで、本件土地全部の所有権を被告会社が取得していなかったことによるものでないことが認められる。

ところで法人税の課税所得は、当該事業年度の益金の額から同年度の損金を控除した金額であるから、その損益がどの事業年度に帰属するものであるか確定することを要するが、法人税法には収益計上の時期について具体的な基準を定めた規定はなく、ただ同法二二条二項は「・・・別段の定めがあるものを除き、・・・資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と、また同条四項は「・・・当該事業年度の収益の額・・は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」との規定が設けられている。そして企業会計における収益計上時期の基準は、発生主義の原則を基調として未実現利益の計上を排除する実現主義の原則による制約を加える考え方をとっているものと言われておる。この考え方を税法上に適用すれば、現実の収入にかかわりなく収入すべき権利の確定した時に利益の発生を認識すべきものといういわゆる権利確定主義に当たるものというべきである。そして、右権利の確定をいかなる時点でとらえるべきかについては、国税庁の法人税基本通達二-一-一で明らかにしているように、明確性には若干問題はあるが、経済的実質上、平明性等の点からたな卸資産の販売収益については、引渡基準によることが相当であると考える。しかし、右は原則であって、複雑な取引について絶対的な基準とすべきではなく、各納税者の申告にかかる所得算定方法が恣意的でなく、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反しない場合は、現行法人税法が申告納税制度を採っている趣旨に徴し、右申告を是認すべく、また当該事業年度に特定不動産につき一個の売買契約が締結され、同事業年度に、その一部の引渡しがなされたに過ぎないとしても、その引渡部分が右目的物の大半をこえ、残余の部分も近日中に引渡され、同時にそれに相応する残代金も支払われる約定で、右代金も確実に回収できるような場合には、たとえ残余の部分の引渡しが当該事業年度を若干こえることになる場合であっても、全物件に対する販売収益が経済的実質上実現したとして収入すべき権利が確定したと認めるのが相当である。

これを本件についてみるに、被告会社は本件土地の販売代金三億三、〇〇〇万円を第一期事業年度の確定申告書に計上して申告していることは、前記のとおりであり、本件土地の売買は一個の契約に基づくもので、そのうち五三・二七パーセントの土地の所有権移転登記に必要な書類は同日昭和不動産に交付され、同日右土地部分の引渡しと代金内金一億三、〇〇〇万円の授受があったものと認められるが、残余の代金二億円もそれから二〇日後で同事業年度を一〇日こえる同年八月一〇日に残余の土地についての登記関係書類と引換えに支払われる旨右契約で定められており、それが履行されることが確実であった(現にそのようになされたことは、前掲証拠上明らかである)から本件土地の一部について引渡がなされたと認められる右契約時に収入すべき権利が確定したものというべく本件土地売買代金を右事業年度で収益として計上したことは、一般に公正妥当と認められる会計処理基準に従った妥当な処理であり、税法上もこれを前提としてほ脱の有無を検討すべきである。

二、次に弁護人は、被告会社と大昭工業株式会社(以下大昭工業という。)間の昭和四八年六月一日付工事請負契約に基づく請負代金一、一一一万円は架空のものではなく、被告会社が大昭工業に支払うべき正当な経費として課税所得より差し引かれるべきである旨主張する。

しかし、御見積書(昭和五一年押第四四号の二〇)、工事請負仮契約書(同号の二一)、木村二三男、海老沢八十男及び被告人木村一男(昭和五一年一月二二日付)の検察官に対する各供述調書を総合すると、被告会社は本件土地を荒造成して見栄えをよくするため、昭和四八年六月一日付で被告人木村一男が実権を持っている大昭工業との間に右造成工事(以下当初の荒造成工事という。)請負契約を請負代金一、一一一万円と定めて締結したこと、しかし大昭工業がさほど本件土地の荒造成をしないうちに、本件土地が被告会社から昭和不動産に売却されることになり、それに伴なって昭和不動産の親会社である間組と大昭工業との間で本件の宅地造成請負の話がまとまり、同年七月一八日付で同社に大昭工業は工事請負の見積書を提出したが、この見積書の中には大昭工業が被告会社から請負った本件土地上の草木の伐採、採根を主たる内容とする荒造成に関する工事請負代金も金額含まれていたこと、被告会社も大昭工業も当初の荒造成工事請負契約は近く締結される間組と大昭工業との工事請負契約に吸収され、当初の荒造成工事請負契約に基づき大昭工業のなした工事代金は間組から支払を受ける金額に含まれることになり、被告会社も大昭工業も右代金を授受する意思はなく当初の荒造成工事請負契約はご破算になったと理解していたこと、従って両者間に右工事の出来高の査定がなされたこともなく、その代金が大昭工業から被告会社に現在まで請求されたこともその支払がなされた事実もないこと、前記見積書に基づき昭和四八年八月一〇日間組と大昭工業との間に本件土地造成工事請負契約が締結され、右工事が施行されたことが認められる。してみると当初の荒造成工事代金については、大昭工業はその請求権を放棄したものと認めるのが相当である。

証人木村二三男及び被告人木村一男は、当公判廷において当初の荒造成工事請負契約に基づきなした造成工事代金は、被告会社に支払義務があり未払金として残っているとか、本件土地内の道路拡幅工事、取付道路工事の追加工事を大昭工業でなしたが、これは被告会社が負担すべきものであるから、この工事代金と当初の荒造成工事代金を合わせて、当初の荒造成工事契約の代金一、一一一万円に振り替えたとか供述するが、右追加工事代金及び当初の荒造成工事代金も明らかでなく、前記のように右工事の出来高の査定もなく、右荒造成工事代金については関係者間でも金額に喰い違いがある(数一〇万円程度という者から二、三〇〇万円という者もある)こと、捜査段階でそのような供述は全くなされていないこと及び前掲検察官に対する各供述調書と対比するとき、前記公判廷の供述は信用し難い。

三、よって弁護人の主張は、いずれも採用しない。

(法令の適用)

被告人木村一男の判示行為は、法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期範囲内で同被告人を懲役八月に処することとするが、情状について考えるに本件は被告人木村一男が被告会社の実質的経営者として本件土地売買に関連して犯した脱税事犯で、そのほ脱額は三、三四六万円に及び、そのほ脱方法も九、一一一万円の多額に上る架空経費を計上するという不正手段によるもので、犯行の手段方法、態様も悪質、計画的と言わざるを得ず、犯跡を穏蔽するための工作を講じていることも認められ、これに被告人木村が茨城町の町会議員という公的地位にあり、本件宅地造成により人口を増加させ、地元小学校の存続による地元の便宜を図るという名分のもとに地元住民の協力を得て被告会社が本件土地を取得したもので、右土地取得も公共的な色彩を帯びていること等を勘案すれば、同被告人の責任は重いものと言わなければならない。しかしながら、被告人木村が本件犯行に及んだ動機の中には自己または被告会社の利得のみを目的としたものともいえず、次期事業年度以降の本件宅地造成計画を円滑に進め、ひいては大戸小学校の存続、地元住民の便宜を確保する意図もあったこと、被告会社は第二期事業年度以降赤字続きで、そのため被告人木村個人の所有地を処分して正規の税金納付に努力していること、法人税のうち本税は既に納付済であり重加算税、延滞税もその一部を支払い、残余についても支払うべく努めていることを勘案して、被告人木村一男に対しては刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

被告会社については、その実質上の経営者である被告人木村一男が被告会社の業務に関して判示違反行為をしたもので、その免れた法人税額は五〇〇万円をこえるものであるから、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項によりその免れた法人税額三三四六万〇二〇〇円以下の罰金額の範囲内で、被告会社を罰金八〇〇万円に処することとする。

訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用して被告人両名に連帯してこれを負担させることとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 早井博昭)

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